うたかたの日々と夢うつつ

濡れた草の中の 青い小さな花 それはあなた それはあなた それはあなた

エリザベート〜シシィのひとり言〜

 木登りしてたら落っこちちゃって、家族はみんな死んだと思ってたんだけど、なぜか生き返ったのよね。その時、銀髪のおじさんを見たような気がしたけど、すっかり忘れてたの。

  その年の夏にお姉ちゃんのお見合いについて行ったら、私の方がすっかり一目惚れされて玉の輿に乗ることになったの。最初から、私と彼、言うことがことごとく違うんだけど、私、浮かれちゃっててそのまま結婚。そしたら、姑は、毎朝5時から働けって言うし、彼は5時に起きたらもういないし。もともと、彼、お母さんの言いなりのとこあるのよね。それで、子供が産まれたら姑に取られちゃうし、勝手に名前までつけられてさ。こんなのアリ?ある時、気づくんだけど私って若くて綺麗なの。彼の仕事にファーストレディとしてついていくのに、ぴったり。これを盾にちょっとは自分の要求が叶うようになったの。美しさって大事よね〜。

 何年かして、悪いことがおこると銀髪のおじさんがチラチラ私の視界に入るようになったの。娘が死んだ時とか、彼と別れようとした時とか。そのうち分かってきたの。悪いことがおこると銀髪が現れるのじゃなくて、銀髪が現れると悪いことがおこるの。一度は銀髪に勝った事もあったわ。悪いことは起こらなかった。彼には浮気されるし、ちょっと旅に出て帰って来たら、息子がなんか相談してくるけど、久しぶりすぎて分かんない。って言ってたら、息子は自殺した。これはとても悲しかったわ。でも、すぐに分かった、銀髪がやったんだって。私も、精神的に参ってたもんだから、もう銀髪に何されてもいいって思ったんだけど、それじゃあ駄目みたい。わたし、さすらうしかないじゃない。彼は、私を追いかけて来て、愛してるとか言うんだけど、全然響かないんだよね。あの結婚式が嘘のよう。

 その後よ。シマシマの服着た浮浪者みたいなのに刺されたのは。その時、私には銀髪の彼の瞳までがはっきり見えたわ。ああ、迎えにきたんだって思った。今がその時なのね。銀髪の彼に抱きつくと彼は優しく微笑んで口づけをしてくれた。うまくいかない事もあったけど私は私の人生を頑張ったわ。そう思えたの。

みんなはよく眠れていないみたい。でも、私はよく眠れているの。ハプスブルクの霊廟で。